事業譲渡における税金とは?節税方法や注意点を徹底解説

事業譲渡における税金とは?節税方法や注意点を徹底解説

事業譲渡を行うと、売手・買手企業ともに税金が発生します。

事業譲渡は双方にとってメリットのあるM&A手法のひとつですが、課税額によってはかなりの税金を負担しなければなりません。

事業譲渡後に後悔することのないよう、あらかじめどんな税金が発生するのかきちんと理解しておきましょう。

ここでは、事業譲渡で発生する税金や節税方法、税金の申告時期、税金に関する注意点について解説します。

事業譲渡における税金とは?

事業譲渡における税金
 

事業譲渡によって納税義務が発生するのは売手企業だけですか?

 
 

いいえ。事業譲渡を行うと売手・買手企業の双方に税金が発生します。ただ、それぞれ税金の種類が異なりますので、自社の立場ではどんな税金が発生するのか知っておく必要があります。

 
 

なるほど!売手だけでなく買手も税金に備える必要があるんですね。

 

事業譲渡によって発生する税金の種類は、売手と買手によって異なります。

ここでは、事業譲渡で発生する税金の種類を売手企業・買手企業ごとに説明します。

売手企業の税金

事業譲渡によって譲渡した財産の価額は、事業譲渡が発生した年度の益金として算入される一方、譲渡前の帳簿価額が損金の額に算入されます。

譲渡価額が譲渡前の帳簿価額を上回った場合、差額に対して法人税が課せられます。

法人税の税率は、普通法人、一般社団法人等または人格のない社団等については23.2%ですが、資本金1億円以下の普通法人や、一般社団法人等または人格のない社団等の所得の金額のうち年800万円以下の金額については税率15%が適用されます。[注1]

買手企業の税金

売買の締結

買手企業に課せられる税金は、消費税・不動産取得税・登録免許税の3つがあります。

1. 消費税

事業譲渡によって譲渡された資産には、消費税が課せられます。

ただ、譲渡された資産のすべてに消費税がかかるわけではなく、土地や有価証券等の譲渡など、非課税取引に該当するものには消費税は課せられません。[注2]

一方、営業権や有形固定資産(商品や製品、事業用設備など)、無体財産権(特許権や商標権等)などには消費税が発生します。[注3]

譲渡益が出ない事業譲渡であっても、譲渡した資産に対する消費税は発生するので注意しましょう。

なお、消費税を負担するのは買手企業ですが、納税するのは売手側なので、事業譲渡の際は売手側があらかじめ消費税の徴収を行う仕組みになっています。

2. 不動産取得税

事業譲渡にともない、オフィスビルや店舗などの土地・建物を取得した場合、取得した価額に対して不動産取得税が課されます。

ここでいう「取得した不動産の価額」とは、固定資産課税台帳に登録された固定資産の評価額のことで、そこに一定の税率を乗じて不動産取得税を算出します。[注4]

税率は土地が3%、家屋(非住宅)が4%ですが、令和6年3月31日までに宅地を取得した場合の適用税率は3%となります。

3. 登録免許税

登録免許税とは、不動産の所有権の移転登記を行う際に発生する税金のことです。

取得した不動産の価額(固定資産評価額)に、土地・建物ともに2%(土地のみ、令和5年3月31日までの間に登記を受ける場合は1.5%)の税率をかけて算出します。[注5]

 

事業譲渡における税金は細分化されているんですね!

 

事業譲渡での節税方法

税金
 

事業譲渡で発生する税金の負担が心配です。節税する方法を教えてください。

 
 

事業譲渡で発生する税金の節約方法には、所得の圧縮や経費の活用、営業権による節税などがあります。しっかり対策すれば税負担を軽減することが可能です。

 
 

節税方法はいろいろあるのですね!事前にしっかり対策したいと思います。

 

事業譲渡で発生する税金の節約方法は、売手企業と買手企業で異なります。

ここでは売手・買手企業それぞれの節税方法をご紹介します。

売手企業の節税方法

事業譲渡を行った際、売手企業側が実施できる節税方法は大きく分けて2つあります。

役員退職慰労金の利用

売手企業側の主な税金対策として、役員退職慰労金を利用する方法があります。

事業譲渡で発生する法人税は、その年度の決算時期の利益に対して課せられる仕組みになっています。

事業利益は経費と相殺される仕組みになっていますので、事業譲渡が発生した年度に、経営者に対して退職慰労金を支給すれば、事業譲渡によって発生した利益を削減することが可能です。

なお、退職慰労金は長年の勤労に対する報償的給与として一時的に支払われるものであるという性質上、退職所得控除が適用されるほか、他の所得と分離して課税されるなど、税負担の軽減措置が設けられています。[注6]

退職所得控除額は勤続年数によって異なり、20年以下なら40万円×勤続年数、20年超なら800万円+70万円×(勤続年数-20年)で算出した額を所得から差し引くことができます。

その他経費の活用

役員退職慰労金以外にも、会社の経費を事業譲渡が行われた年度に合わせることで、法人税を節税できます。

たとえば、事業譲渡が行われる年度に広告宣伝費や設備投資費を活用するなどです。

ただ、経費を使うとそれだけ手元に残るキャッシュも減少しますので、税金対策のためだけに無駄な経費を使うのは本末転倒になります。

経費による節税を狙うのなら、あくまで事業にとって必要な経費のみを使用しましょう。

買手企業の節税方法

事業譲渡で譲渡される資産は複数にわたりますが、中でも大部分を占めているのが、企業のブランドやノウハウ、人材、情報といった無形資産を包括する「営業権」です。

営業権は目に見えない会社の価値そのもので、将来性のある企業の営業権ほど大きな資産となりますが、営業権は無形資産として減価償却することが可能です。

法令では営業権の耐用年数は5年と定められているため、譲渡された営業権は5年間にわたって均等償却し、法人税を算出する際の損金として計上することができます。[注7]

 

確定申告は迅速な対応が必要なんですね!

 

事業譲渡で発生した税金の申告時期

事業譲渡で発生した税金の申告期限
 

事業譲渡によって発生した税金は、いつまでに申告すればいいですか?

 
 

法人の場合、各事業年度終了の日の翌日から2ヵ月以内に申告する必要があります。ただし、特例を受ける場合は期限を延長することが可能です。

 
 

なるほど、事業年度が終了したら速やかに申告した方が良いのですね!

 

事業譲渡で発生した各種税金は、法人税法第74条に基づき、各事業年度終了の日の翌日から2ヵ月以内に申告しなければなりません。[注8]

たとえば3月31日に事業年度を終了する企業は、2ヵ月先の5月31日までに事業譲渡によって発生した税金の申告を行う必要があります。

ただし、災害その他やむを得ない事情によって決算が確定しなかった場合には、申告期限を延長することが認められています。

延長期限は最大2ヵ月となっているため、特例が認められる場合は事業年度終了の日の翌日から4ヵ月以内に申告を行うことになります。

なお、税金の申告は、管轄の税務署長宛に確定申告書を提出することで完了します。

確定申告には手間と時間がかかりますので、事業年度が終了したらなるべく早めに申告の準備を開始しましょう。

 

正しく節税して、スムーズな事業譲渡につなげたいですね!

 

事業譲渡で発生する税金の注意点

棚卸し作業
 

事業譲渡で発生する税金について、気をつけなければいけないことはありますか?

 
 

棚卸資産の変動による影響や、名義変更による各種税金の発生に注意が必要です。

 
 

そうなんですね。納税漏れがないよう理解を深めておく必要がありますね!

 

事業譲渡で発生する税金に関して、特に注意すべきポイントを2つご紹介します。

棚卸資産の変動にともなう税金の変化

課税事業者の場合、棚卸資産に対して消費税が発生しますが、在庫数が「事業譲渡を検討した日<実際に譲渡した日」だった場合、当初の予定より消費税額が割高になります。

当初の試算より在庫数が大幅に増えた場合、消費税の負担が大きくなりますので、場合によっては譲渡の対象となる棚卸資産を厳選するなどの対策を講じる必要があります。

名義変更にともなう税金の発生

事業譲渡によってオフィスビルや店舗、工場といった土地・建物を譲り受けた場合、不動案の取得および名義変更に対して税金が課せられます。

不動産の取得には不動産取得税、名義変更には、登録免許税がそれぞれ発生し、譲渡された不動産価額に対して2~4%(期間限定の減税措置あり)が課税されます。

不動産価額は立地や規模によって異なりますが、場合によっては億単位に上ることもあるため、2~4%でも税金の負担はかなり大きくなります。

土地・建物の譲渡を受ける場合は、あらかじめ不動産取得税や登録免許税の試算を行い、税負担がどのくらいになるか把握しておきましょう。

前項の棚卸資産同様、税負担が予想以上に大きい場合は、譲渡される不動産の取捨選択などが必要になることもあります。

 

名義変更にともなう税金は負担が大きいため注意が事前の把握が必要ですね!

 

事業譲渡は売手・買手企業ともに税金が発生する点に注意しよう

事業譲渡を行うと、売手企業は法人税、買手企業は消費税や不動産取得税、登録免許税をそれぞれ負担することになります。

役員退職慰労金や、その他経費を利用したり、営業権の減価償却などを行えば節税が可能ですが、税負担が予想よりも大きくなる場合は、譲渡資産の見直しや取捨選択が必要になる可能性があります。

税の申告は事業譲渡が行われた事業年度終了日の翌日から2ヵ月以内に実施しなければならないので、どの税金がどれくらい必要なのかを正確に把握し、納税の準備を進めていきましょう。

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[注1]財務省:法人課税に関する基本的な資料
[注2]国税庁:非課税となる取引
[注3]国税庁:課税の対象となる取引
[注4]総務省:不動産取得税
[注5]国税庁:登録免許税の税額表
[注6]国税庁:退職金と税
[注7]e-Gov法令検索:減価償却資産の耐用年数等に関する省令
[注8]e-Gov法令検索:法人税法