事業譲渡における従業員への3つの対応や、引き継ぎ内容について

事業譲渡における従業員への3つの対応や、引き継ぎ内容について

事業譲渡あるいは事業売却が行われると、すでにある会社が所持している事業の100%、またはその一部を、別の会社や個人に売却(M&A)されます。そこにある資産や負債が、契約に基づいて取引行為として移転や承継されるのが特徴です。

本記事では、事業譲渡による従業員への影響や対応について継続、転籍、解雇のパターンをそれぞれ解説します。

事業譲渡による従業員への影響

従業員との相談
 

会社が事業譲渡すると、勤務していた従業員はどうなるんですか?

 
 

買い取った企業が決めた規則、規定に基づいて契約を結べるので安心してください。

 
 

そうなんですね!

 
 

ただし労働条件によっては退職や解雇につながる場合もあるので注意が必要です。

 

事業譲渡が行われると、その事業で働いていた従業員たちは当人と同意のうえで労働契約が更新されます。買い取った側の企業が定める就業規則や各種規定に基づいてあらためて労働契約を結ぶのが一般的です。

労働契約の内容が変わることでプラスに運ぶこともあれば、逆にマイナスに感じられることもあるでしょう。場合によっては、退職や解雇せざるを得ないことも想定されます。

なお、従業員が買い手側に移るのは強制ではなく、売り手側に残ることも可能ではあります。

労働条件が更新される

事業譲渡は一方的に実施されるわけではなく、従業員に詳細を説明し、同意を得たうえで成立します。

この際に労働条件が更新されますが、その変更内容は従業員にとってポジティブあるいはネガティブに受け取れるものとなります。事業譲渡に至った理由によってその内容は異なるでしょう。

たとえば、その事業が労働条件を切り下げなければ事業が立ち行かなく立ち行かなくなった場合、買い手側に転籍しても売り手側に残ったとしても、その変更は受け入れざるを得ない状況にある可能性が高いです。

 

事業譲渡の際には従業員への丁寧な説明が必要なんですね。

 

退職金や年金

買い手側の企業に移ったあとは、退職金や年金といった制度についても、転籍先で用いられているものが適用されるのが一般的です。

すでに売り手側の企業で発生していた退職金や年金の権利については、事業売却の際に清算されます。このほかにも、そのまま買い手側の制度に組み込まれて引き継がれるケースもあります。

退職金や年金の制度が変われば、場合によっては将来設計に大きな影響を与えるかもしれません。

 

従業員の将来設計のためにも、事業譲渡による退職金や年金といった制度の変更は慎重に行いたいですね。

 

失業

買い手側の企業に引き継がれず、また売り手側の企業にとっても引き続き雇用する余地がない場合、その従業員に対しては退職が求められます。これが、整理解雇です。

従業員にとっては非常に厳しいですが、整理解雇が実際に認められるためには、極めて高いハードルがあります。整理解雇せざるを得ないような状況があり、加えて解雇を回避するべく可能な限り策を練ったうえで、それでもどうしようもない場合に検討されるのです。

このほかにも、企業間での取り決めでその従業員は引き継ぐとされていたものの、当人がそれを拒否した場合には、最終的に解雇せざるをえなくなります。

 

整理解雇については正しく理解しておく必要がありそうですね。

 

事業譲渡における従業員への3つの対応

事業譲渡における従業員への対応3つ
 

事業を譲渡する場合、従業員に対しての説明はどうしたらいいのでしょうか。

 
 

企業側は従業員に対して、3つのケースを想定して丁寧をしましょう。

 

企業間で取り決めた結果、事業譲渡が確かに行われるとしても、従業員たちの身の振り方は当人たちに委ねられます。必要な説明をしたうえで、従業員一人ひとりの要望に対して、企業側は適切な対応をしなければいけません。

想定される3つのケースと、それぞれの対応について見ていきましょう。

1. 転籍を拒否された場合

もし、転籍を望まない従業員がいる場合、売り手側から買い手側に対して出向という形で引き続き働いてもらうことが可能です。あくまでも出向ですので、籍は元の売り手側の企業に置いたままで働いてもらえます。

そもそもその事業譲渡自体に否定的な従業員だと、出向さえも拒否して離職を希望することもあるでしょう。そのような事態を防ぐために、しっかりと説明を行うのが大切です。

 

テスト出向という方法で引き続き勤務は可能なのですね。

 

2. 退職を希望している場合

事業譲渡に伴って従業員が自ら退職を希望してきた場合、基本的には自己都合による退職として扱われます。従業員からすると、買い手側の企業に転籍しないのであれば、ほかに退職の選択肢しかないと思い込んでいる可能性もあります。

必要な説明はしっかりと従業員に対して行うことが大切です。転籍しても労働条件や給与などに大きな変化がない場合であっても、従業員との間で認識相違がないように心がけましょう。

説明が不十分だったゆえにトラブルが起きた場合、売り手側の企業にとって不利な状況となるので注意が必要です。

 

認識のズレが原因での退職を避けるために、丁寧な説明が必要ですね。

 

3. 配置換えを希望された場合

従業員がどうしても買い手側の企業に残りたい場合、配置換えを希望することが可能です。企業側としては、配置換えを行うことで給与や職位に影響がある可能性をしっかりと説明して同意を得るようにしましょう。

もし、配置換えによって変化した労働条件を飲み込めず従業員が退職を選んだ場合、会社都合による退職になるので気をつけなければいけません。

 

配置換えの際は、給与や職位に影響があることを丁寧に説明する必要があるんですね。

 

事業売却に伴う従業員の引き継ぎとは

事業売却に伴う従業員の引き継ぎの2つのケース
 

事業売却に伴う引継ぎはどのようなケースがあるんでしょうか。

 
 

ケースとして、労働契約をそのままで引き継ぐ、転籍で引き継ぐという2つが挙げられます。

 

事業売却に伴う従業員の引き継ぎについて、2つのケースでそれぞれ解説していきます。

基本的なポイントとして、事業売却について早い段階で従業員に対して詳細を開示するようにしましょう。従業員に対する説明を後回しにしたり、あるいは軽視していたりすると、後から事業の引継ぎが難しくなるケースがあるためです。

そのため、できるだけ早い段階で状況を共有し、今後必要となる対応について考えていかなければいけません。

1. 労働契約をそのままで従業員を引き継ぐ

売り手側の企業と従業員が結んでいた労働契約の内容のままで、買い手側の企業に承継して今後も働いてもらうものです。内容はそのままだとしても、従業員当人の同意は当然必要となります。

この場合、退職金や有給休暇、未払い賃金など、こういったものに関しても、そのままの状況で買い手側の企業が引き継ぎます。場合によっては、全体的な労働条件はそのままでも、退職金や有給休暇など、一部の内容については清算したのち、引き継がれずに新たな契約となることもあるでしょう。

いずれにしても、企業と従業員の間で正しく理解していなければいけません。

また、未払い賃金のような債務を買い手側の企業が引き継ぐと、それに関する訴訟といったリスクまでも背負いこんでしまう恐れがあります。事業売却前に清算するか、債務を引き継がない旨を契約に含めることが必要です。

 

債務の引継ぎには注意が必要なんですね。

 

2. 転籍による引き継ぎ

承継ではなく、転籍による引き継ぎの場合、その従業員はいったん売り手側の企業を退職してから、改めて買い手側の企業と労働契約を結ぶことになります。簿外債務を引き継ぐ可能性がないため、買い手側の企業は転籍による引き継ぎを希望するケースが一般的です。

転籍の際も、従業員の同意は必須です。そのなかで、労働条件や勤続年数、退職金といったものの扱いをどうするかが問題点として挙げられます。

有給休暇については、それまでに得ていた分はリセットされるのが原則ですが、引き継ぎの際における取り決めとしてそのままということも可能です。

未払い賃金についても注意しなければいけません。原則としては買い手側の企業がこの債務までを引き継ぐことはありませんが、その後の事業を円滑にするために、支払わざるを得ないケースは珍しくないのです。

 

有給休暇に関してはどう処理するかを事前に決めておく必要がありそうですね。

 

従業員の退職金の扱いとは

従業員の退職金
 

転籍は一度退職することになりますが、退職金はどうなるんですか?

 
 

退職金の扱い方は、一度清算するか移行するという2つのケースがあります。

 

転籍により、いったん退職する都合で問題となるのが退職金についてです。転籍における退職金の扱いには以下2つのケースが考えられます。

転籍まで働いた分の退職金を一度精算して譲受企業の規定に従う

転籍ではいったん退職となるため、売り手側の企業でその段階における退職金を支払い、勤続年数がリセットされるのが一般的です。その後、改めて買い手側の企業と契約を結び、そこでの規定に従って退職金は扱われます。

これまで働いた分の退職金を譲受企業に引き継ぐ

従業員によっては、勤続年数のリセットを希望しない場合もあるでしょう。その場合には、通算する扱いにし、退職金もこれまでの勤続年数に応じて買い手側の企業が支払うように取り決めるといった案が考えられます。

従業員の解雇を行う場合の条件

事業売却によってやむを得ず従業員の解雇を行う場合、解雇権の濫用と見なされないようにしなければいけません。解雇権の濫用と見なされれば、その解雇は無効となります。

以下4つの条件すべてに該当するか確認しましょう。

  • 企業の経営上、どうしても解雇せざるを得ない
  • 解雇を回避するために出向や残業制限などさまざまな策を試みた
  • 解雇の対象となる従業員の選定が合理的で公平に行われた
  • 整理解雇が必要となる理由について、またその内容について労働者側と十分に協議を行った

解雇といってもすべての従業員を対象にするわけではなく、一部は引き継ぐといったことが可能です。

労働契約の承継・転籍を拒否された場合の対応

従業員の退職
 

事業譲渡においては従業員への丁寧な説明が大切なのは分かりました。ですが従業員が受け入れてくれないケースはないのでしょうか。

 
 

従業員が受け入れられない場合、配置換え、第三者を交えた話し合いを講じるのが一般的です。

 

事業譲渡によって労働契約の承継や転籍を企業側として提案したものの、従業員がいずれも受け入れられない場合もあるでしょう。その場合、以下のような対応が検討されます。

いずれも同意してもらえない場合に雇用を継続するための対応

もし、売り手側の企業で別の事業を持っており、そこにその従業員を受け入れられる余地があるのであれば、配置換えを提案します。しかし、これまでと大きく労働条件が変わるなど、受け入れがたい配置換えである可能性もあるでしょう。

もっと好ましい条件があるにもかかわらず、従業員にとって退職を選ばざるをえないような提案をしてしまうと、退職へと仕向けるための不当行為とされる場合があります。

いずれも同意してもらえない場合に説得するための対応

いずれも同意してもらえないのであれば、買い手側の企業も交えた三者間で承継や転籍による労働条件や勤続年数、退職金などの扱いについて調整を図ることが考えられます。

同意できない理由や事情について企業側としては多分に汲み取ったうえで、譲歩できる部分を模索することも必要です。

しばらくは出向という形で買い手側の企業で働いてもらうことも考えられます。

説得しても退職や解雇が避けられない場合

十分に協議や説得を行ったものの、企業側の対応に従業員がいずれも同意できないのであれば、最終的に退職を選ばざるを得ません。

退職金の増額や再就職先のあっせんといったものを用意し、できるだけ自主的な退職を選んでもらえるようにしましょう。それでも受け入れられなければ、解雇となります。

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退職や解雇につながらないように、従業員には丁寧なケアが必要なんですね。

 

事業譲渡は企業だけで進めず従業員に十分理解してもらうことが大切

事業相とは、そこで働く従業員にとってただ雇い主が代わるだけではありません。労働条件や勤続年数、退職金、有給休暇など、さまざまな部分に大きな影響を及ぼす重要な事態です。

承継や転籍といった提案を従業員に理解してもらえるように、企業としては必要な努力を徹底しなければいけないでしょう。